2016年6月5日日曜日

鎌倉



休みを利用して鎌倉に行った。夏を感じる。







神戸で見る見慣れた海と違って太平洋からの季節風をモロに受ける相模湾は穏やかではない。青空の下で白波が荒々しく立っているのを見るとサーファーが集まるのも納得する。例えば白いTシャツに短パンカーゴパンツ、ビーサンの真っ黒に日焼けしたサーファーが防波堤に座って波を眺めていたりする。よく見るとそれが50くらいのおじさんだったりする。若い。それに、サーファーでなくても鎌倉では5月にも関わらずビーサンを履いた人がとにかく多かった。もうビーサンの時期なのかと思って神戸に帰ったが、神戸でこの時期にビーサンを履いている人は一人もいなかった。

読んだことないけどスラムダンクの舞台にもなっている鎌倉高校前にも行ったら、完全にカルピスのCMの世界観だった。ホームから海が目の前に見える江ノ電の鎌倉高校前駅では部活帰りの高校生が電車を待っているだけでも絵になる。パチンコ店だけが活気あるくたびれた商店街を抜けて最寄駅に行き、そこから駅のゴミ箱から空き缶を拾い集めるおじさんと共に環状線をぐるぐる回りながら帰路についていた自分の高校時代を思い出して羨ましく思った。




カルピスのCMの世界観



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鎌倉駅のすぐ近くに小さな書店があったので入ってみると、鎌倉を舞台にしたり、ゆかりがある小説を集めたコーナーが作られていて、その中でオレンジ・アンド・タールという小説があった。手に取るとオードリーの若林が解説を書いてあり、思わずその場で解説を先に読んでしまったが、それがなかなかに熱いもので、気が付いたらオレンジ・アンド・タール一冊を抱えてレジに並んでいた。

ぼくにとって『オレンジ・アンド・タール』は単なる小説では無い。ましてや、誰もが味わう大人の階段を登る途中の一時的な感情を扱った小説でも無い。(中略)トモロウが弁天橋の下にいる理由、そして、その理由との挌闘は今もぼくの主題にあるからだ。(オレンジ・アンド・タール解説より)

余談になるけど、自分は若林のファンだ。「人見知り芸人」「女の子苦手芸人」「お家大好き芸人」等々…とても"生きにくそう"に見える若林正恭という人間は非常に興味深い。彼の抱える"生きにくさ"に自分をつい重ね合わせてしまうのだ。YouTubeに上がっているオードリーのオールナイトニッポンの過去回を聞き漁っているのもそういう理由だと思う。この解説を読んで、若林が何を思っているのか、そのヒントがこの小説にあると思った。

もちろん小説の内容もそうだけど、この小説を鎌倉で読めたことはとても大きかった。小説の後半は旅行の中で読み切れなかったから神戸に帰ってから読んだけど、入ってくるものが違った。またもう一度鎌倉に行った時には、この小説を持って行って読み直したいと思う。



あとは滞在中にアジカンのサーフブンガクカマクラも、"海辺のファーストキッチンって七里ケ浜じゃなくて江の島にあるのか!"とか思ったりして何回も聴いた。藤沢ルーザーの青い海に全部投げ出したくなる衝動も江ノ島エスカ―の10代に恋をした時の甘酸っぱさも七里ヶ浜スカイウォークの予定のない晴天の日に感じる焦燥感も、鎌倉の風景を目の前にして本当に映えて聴こえた。


『心の臓がわずかに逸るビート 踊りますか』



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今の仕事は転勤がない業種なので、恐らく今後ずっと神戸に住み続けると思う。神戸は好きだし、転勤させられるのが嫌で就職したということもあるので、基本的にそれに不満はない。でも勝手なものでずっと神戸に住めることが約束されたとたん、その反動で今、他の街で暮らしてみることへの憧れがすごい芽生えてきている。今後の人生がある程度見えてしまって萎えるという…マリッジブルーのような感覚かもしれない。特に今回の鎌倉みたいに素敵だと感じる街に旅行で行った時なんかは、子どもは鎌倉高校に通わせるしかないなとか由比ガ浜に住めたらベストだなとか週末は134号線沿いでランニングとかしだすのかなとか…パラレルワールドに住む自分を妄想する。そんな世界が”あり得る”ということさえ、神戸で普通に仕事して毎日過ごしているだけではなかなか考えもしない。

二泊三日の滞在初日の夜、江ノ島で夕食を済ませ、弁天橋を渡って江ノ島駅に向かってる道中でボウリング場を見つけ、ホテルに帰るには時間が早かったから1ゲームだけ遊んだ。その1ゲームで、普段はスコア100を越えれば満足な自分が、なんとストライクを5回も連続で出してしまった。その時になんとも言い難い解放的な気分になったのが忘れられない。それはストライクを連続で出したからなのか、明日も明後日も休みだからなのか、ビーサンを履いた人ばかりの鎌倉の街の雰囲気のせいなのかはわからない。わからないけど、仕事とか日常の諸々、現実を忘れられるその瞬間こそが旅行に行く理由のような気がした。これからもこういう瞬間を味わうためにまだまだ旅行には行きたい。


旅の初日、弁天橋より夜の江ノ島を仰向く





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